デジタル、アナログを救う。「magnitude 32-88」


 

30年使いつづけてきたエール音響4ウェイスピーカーシステム。その本来の能力を引き出してくれたのは、究極のデジタルチャンネルディバイダだった。

 長らく新聞・雑誌・ポスターなど紙媒体の広告をつくることを生業にしていますが、この業界にもデジタルの波がおそいかかり、あっというまに仕事の仕方そのものが変わってしまいました。版下屋さんとか写植屋とか、無くなってしまった業種も多々あります。ウェブ広告の年間の媒体費は、新聞広告の媒体費をすでに追い抜いています。若干ですがデジタルの恩恵と言える部分もあり、紙媒体の制作作業は、その殆どをパソコン画面の中で完結させることができるようになりました。
オーディオの世界にもCDというデジタルの最初の波がやってきました。レコード媒体は衰退し、ついにはネットワークオーディオにまで発展。ネットワークプレーヤー・DACなどのデジタル機器なしではフルにオーディオを楽しめないまでになりました。そんなオーディオで、ぜったいにデジタル化できないのがスピーカーです。車でいうとタイヤでしょうか。F1レースでも最後はタイヤセッティングが走りをきめます。
長らく使ってきた、アナログの極致とでもいえるようなエール音響のホーンスピーカー。このホーンスピーカーシステムが秘めている、とてつもない再生能力を引き出すことができるようになったのは、実は究極のデジタルのおかげなのです。
マルチチャンネルアンプシステムを駆使して苦節数十年、やっと分かったことは 「測定器(測定)なしでマルチチャンネルアンプシステムは成功しない」ということです。そう思い知ったのには、あるホームページとの出会いがあります。
「スピーカーの上手な鳴らし方/論より実験のオーディオ思考」というサイトで、そのまえがきに主催者の経歴とともにサイトの趣旨が以下の通り書かれています。
 
■サイトのコピペ)職業として、特注電子機器製作、オーディオ販売、ホール音響工事、修理(音響メーカー業務委託契約2社14年間)、保守等、様々にこなし、プロ音響の合理的で優れた点と、自身も趣味としているオーディオの融合を考え、時には、市販されていないジャンルの機器製作、製品の改造まで行い、劣化してない、ありのままの音を求めてみました。ありのままの音とは、良くも悪くも、音源に依存する音で、ハイエンド機器を並べても実現できず、それほどの予算をかけずとも、マルチアンプシステムと、少しの工夫で達成できます。マルチアンプシステムの手引書として、活用いただければ幸いです。
 
このサイトに目を通して分かったこと、それは「こんなスキルも測定機材も私にはない!」でした。
そして前述した「測定器(測定)なしでマルチチャンネルアンプシステムは成功しない」という結論に至ったのです。
 
物をつくるときの言葉で「現物合わせ」というのがあります。建築業界では「現場合わせ」というのもある。予定通り、設計図通りにいかないところを、その場・その物をすり合わせてうまく収めることで、オーディオ機器の調整はまさに「現物合わせ」「現場合わせ」が基本となっています。
だが、ことマルチチャンネルアンプシステムにおいては、現物合わせ・現場合わせだけでは限界があるのです。
「スピーカーの下に10円硬貨を一枚挟んだら音が良くなった」とか「ツーイーターを5ミリ手前に出したら音が激変した」とか、マニアックな逸話?をたまに見聞きしますが、逆読みすれば勘に頼る現場合わせの脆弱性を物語っているようなものです。
「スキルも機材もない」私が見つけたのが、 TRINNOV AUDIO社magnitude  32-88です。ステレオで4ウェイまで設定可能なデジタルチャンネルディバイダで、当方のシステムに最適でした。クロスオーバーはー12db/ー18db/ー24db オクターブで、ベッセル・リンキッツライリー・バターワースの3タイプのフィルタを選べます。カットオフ周波数も自由に設定できます。

この magnitude 32-88、さらにサウンド・オプティマイザーという音場測定補正機能をもっています。
専用の3D測定マイクを使用して音響特性を計測。超高性能のマイクロプロセッサーで音響特性を最適化します。部屋の低域音響特性の補正はもちろん、群遅延特性、位相特性、インパルス応答といった時間軸特性までをも含めて最適化。つまり測定器を使ってやる調整をぜんぶPCにやってもらうわけです。周波数特性を調整するただのイコライザーとはわけが違います。もちろん補正後に好みの特性に自らボイシングすることも可能です。これらの操作は、すべてリスニングポイントに座ってiPadで行えます。
つまり「スキルも測定器もない」私でも、この magnitude 32-88を使えば、 完全なチャンネルディバインディング、音響補正ができるのです。その効果は驚くべきものでした。
 
 
私が使った最初の本格的なスピーカーシステムは3ウェイ。音研の砂入りホーンをつけた OS-500MT中音ユニット、OS-5000Tツーイーター、ALTEC 416-8Aを自作の音研型バスレフボックスに入れたウーハー。これをLCネットワークで繋いだのが、最初の3ウェイスピーカーシステムでした。

その後、オーディオコーディネーターの大重善忠氏と出会い、エール音響の折り曲げホーンをつけた特注の 7550オールパーメンジュール中低音ドライバ、YLの名機 CO-800ホーンをつけた、同じく特注 4550オールパーメンジュール中高音ドライバ、1750オールパーメンジュール高音ドライバ。そして特注ボックスに入れた オーディオノート社製2001-38Wウーハーを使った、ネットワーク式4ウエイシステムになりました。
このシステムを自作の金田式CRチャンネルディバイダで組んで、金田式電池駆動自作DCプリアンプ、自作DCパワーアンプで鳴らしたのが、マルチチャンネルアンプシステムのはじまりでした。
使用者が多いというデジタルチャンネルディバイダ BEHRINGERDCX-2496は長く使用しましたが、どうしても満足する音にはなりませんでした。再生音の不満な部分は、録音時のコンプレッサーを解除するエキサイター装置や、超低音・超高音増幅装置など、数々のイコライザー機器を使って補ってきたのです。
 
TRINNOVオーディオmagnitude 32-88を使うようになって、これらのイコライザーの必要は全くなくなりました。
ただし、サウンド・オプティマイザーで音響特性の最適化をしただけでは、フラットなままでつまらない再生音しか出ません。補正後の手動での周波数調整がうまくいってはじめて、至福の再生音となります。やはりいちばん最後には、より良い音楽を判断できる「美意識」が必要になるのではないかと思います。
 
自画自賛ではありますが、きちんとチューニングされたエール音響製ホーンスピーカーの実力はたいしたものです。
 
 
 
 
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